成年後見人の基礎知識と対応方法

判断能力の低下が心配な家族を支える場面で、“成年後見人とは何をする人なのか”“家族が必ずなれるのか”“どこまで権限があるのか”と不安になる方は少なくありません。成年後見人は、本人の財産管理や法律行為を支える重要な立場ですが、できることとできないことにははっきりした線引きがあります。制度の全体像を早めに理解しておくことで、申立ての要否や家族内での役割分担を整理しやすくなります。
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1. 成年後見人とは何をする人?まず押さえたい基本の役割
成年後見人は、認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が十分でない本人を法律面・財産面から支える人です。単なる“家族の代わり”ではなく、家庭裁判所の関与のもとで本人の利益のために職務を行う点が大きな特徴です。
成年後見人は家族の代わりに何でもできる?
成年後見人が担うのは、主に“財産管理”と“身上保護”です。財産管理には預貯金の管理、必要な支払い、不動産や保険などの確認が含まれ、身上保護には介護・福祉サービスや施設入所契約などの法律行為が含まれます。
ただし、食事や介護そのものを日常的に行う役目ではなく、医療行為への同意を包括的に行える立場でもありません。この点を誤解したまま申立てをすると、“思っていた制度と違った”というズレが起こりやすくなります。
民法7条は、“精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者”について後見開始の審判をすると定めており、民法8条は後見開始の審判を受けた者を成年被後見人とし、これに成年後見人を付するとしています。つまり、成年後見人は家族の便宜のためではなく、本人保護のために法的に選任される存在です。
出典:民法8条
成年後見人と保佐人・補助人はどう違う?
成年後見制度には、“後見”“保佐”“補助”の3類型があります。判断能力がほとんど失われている場合は後見、著しく不十分な場合は保佐、一定程度不十分な場合は補助が検討されます。
“成年後見人”という言葉で検索していても、実際には保佐や補助のほうが適しているケースもあります。たとえば、日常の買い物はできるが大きな契約に不安がある場合には、いきなり後見ではなく保佐・補助を検討したほうが本人の自己決定を残しやすいことがあります。
制度選択を誤ると、本人の生活に必要以上の制約がかかるおそれもあるため、“判断能力が落ちている=必ず後見”とは限らない点を押さえることが大切です。裁判所も成年後見制度を“後見・保佐・補助”として案内しています。
2. 成年後見人には誰がなれる?家族が選ばれない場合もある?
成年後見人の候補者として家族を立てることはできますが、申立書に書いた人が必ず選ばれるわけではありません。家庭裁判所は、本人の財産状況や親族間の対立の有無などを踏まえ、弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職を選任することもあります。
家族を候補者にしても選ばれないのはどんな場合?
親族間で財産をめぐる対立がある場合、本人名義の不動産や多額の預貯金がある場合、すでに家族が本人のお金を管理していて透明性に不安がある場合などは、専門職後見人が選ばれやすくなります。
また、“長男だから当然”“同居しているから必ず自分”という考え方は通りません。後見人の基準は家族の立場の強さではなく、本人の利益を安定的に守れるかどうかです。
裁判所は、候補者として記載した人が必ず選任されるわけではなく、事案に応じて専門職や複数の後見人等を選任する場合があると明示しています。候補者に選ばれなかったこと自体を理由に不服申立てはできない点も、あらかじめ理解しておきたいポイントです。
成年後見人になれない人や注意が必要なケースは?
本人と利益が衝突しやすい場面では、そのまま家族が自由に動けるとは限りません。たとえば、本人と後見人の間で遺産分割や不動産売買など利害が対立する場合には、特別代理人の選任が問題になることがあります。
また、後見人に選ばれた後も、本人の財産を自分の生活費に流用することは当然許されません。家族が“面倒を見ているのだから少しくらい使ってよい”と考えるのは非常に危険です。
裁判所の案内でも、成年後見人と本人との利益が相反する場合には特別代理人選任の手続があることが示されています。後見人はあくまで“本人のための管理者”であって、“家族の裁量で使える権限者”ではありません。
3. 成年後見人をつけるにはどうする?申立ての流れと必要書類
成年後見人を選んでもらうには、家庭裁判所へ後見開始の申立てを行う必要があります。本人の状態や財産状況を示す資料が必要になり、申立て後すぐに決まるわけではないため、急ぎの契約や財産処分がある場合は早めの準備が重要です。
申立てにはどんな書類が必要?診断書がない場合は?
一般的には、申立書、本人の戸籍謄本、住民票または戸籍附票、候補者の住民票、診断書、本人情報シート写し、健康状態に関する資料、成年被後見人等の登記がされていないことの証明書などが必要です。
特に診断書は重要で、“高齢だから”“物忘れがあるから”だけでは足りず、制度利用が必要な程度かどうかを医学的資料で示す必要があります。診断書がすぐ用意できない場合でも、どの書式を使うか、主治医に何を説明するかを先に整理しておくと進めやすくなります。
裁判所は標準的な添付書類としてこれらを案内しており、診断書や本人情報シートについては専用の手引も用意しています。書類不足があると手続全体が遅れやすいため、提出前の確認がとても大切です。
申立てしたらすぐ始まる?途中で取り下げできる?
“ひとまず出して様子を見る”という感覚で申立てるのはおすすめできません。裁判所は、申立て後は家庭裁判所の許可がなければ取り下げできないとしており、必要に応じて鑑定が行われる場合もあります。
また、審判までの期間はおおむね1か月から2か月程度が目安ですが、鑑定が入るとさらに時間がかかります。急な施設入所契約や不動産対応が控えている場合は、“必要になってから慌てて申立てる”のでは遅いことがあります。
家族の中で“誰が申立人になるか”“どこまで資料を集められるか”を事前に詰めておくことで、後からの混乱を抑えやすくなります。
4. 成年後見人ができること・できないことは?財産管理で揉めやすい場面
成年後見人が付くと安心と思われがちですが、実際には財産処分や報酬、裁判所への報告など厳格なルールがあります。家族が自由に預金を引き出せる制度ではないため、開始後の運用イメージまで含めて理解しておくことが重要です。
本人名義の家や預金は自由に動かせる?
成年後見人は本人の預貯金を管理できますが、本人のために必要な範囲で適切に行うことが前提です。特に、本人が住んでいる家など居住用不動産の処分は、後見人の判断だけで自由に進められるものではありません。
民法859条の3は、成年後見人が成年被後見人に代わってその居住用不動産を処分するには、家庭裁判所の許可が必要だと定めています。つまり、“介護費用がかかるからすぐ売却”“空き家になる予定だから親族の判断で処分”という流れには、法的なチェックが入るということです。
大きな財産行為ほど、本人の生活基盤への影響が大きいため、家族の都合だけで進められない設計になっています。
成年後見人には報酬がかかる?選任後の負担は重い?
親族後見人でも、選任された以上は家庭裁判所への初回報告・定期報告などの対応が必要です。財産目録や収支の整理が甘いと、後から説明が難しくなるため、開始時点から通帳管理や領収書保管を丁寧に行う必要があります。
また、後見人等が報酬を受けるには、家庭裁判所への報酬付与申立てが必要で、当然にもらえるわけではありません。専門職後見人が選任された場合は、本人の財産から報酬が支払われることがあり、その点も家族が事前に理解しておくべきです。
裁判所は、選任後の初回報告・定期報告の案内や、報酬付与申立ての手続を公表しています。制度を使うかどうかは、“選任されるまで”ではなく“選任された後に続く管理責任まで負えるか”で考えることが大切です。
成年後見人は、本人を守るための強い制度である一方、家族にとっては思った以上に制約や手間のある制度でもあります。本人の判断能力の程度、財産規模、親族関係、今後予定される契約や処分の有無を踏まえ、“本当に後見が必要か”“保佐・補助や任意後見のほうが合うか”まで含めて検討するのが実務的です。

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