株式贈与の基礎知識と対応方法

“親から兄だけに自社株が渡っていた”“生前に株式を贈与したと言われたが、相続ではどう扱われるのか分からない”“非上場株式なので金額の基準自体が見えにくい”――相続で“株式贈与”が問題になる場面では、単に“もう渡してあるから終わり”とはならないことが少なくありません。特に、相続人の一人に対する生前贈与があった場合、その株式が特別受益として持ち戻しの対象になるのか、どの時点の価格で評価するのか、遺留分との関係はどうなるのかが争点になりやすいです。さらに、対象が非上場株式や譲渡制限株式だと、財産評価と会社法上の制約が絡み、遺産分割が一気に複雑になります。
この記事では、相続分野に絞って、株式贈与が問題になる典型場面、特別受益との関係、評価の考え方、揉めやすいケース、実務上の確認ポイントを順に整理します。相続開始後に慌てて対立を深めないために、どこを確認すべきかを早めに把握しておくことが重要です。
contents
1. 株式贈与が相続で問題になるのはどんなとき?
株式贈与は、現金の贈与よりも“見えにくい不公平”を生みやすい財産です。特に、会社経営に関わる株式や非上場株式は、名義・評価額・議決権の影響が大きいため、相続開始後に初めて争点化することも珍しくありません。
親が生前に一部の相続人へ株式を渡していたらどうなる?
被相続人が生前に相続人の一人へ株式を贈与していた場合、その贈与が“生計の資本としての贈与”に当たれば、民法903条1項の特別受益として扱われる可能性があります。特別受益に当たると、相続開始時に被相続人が有していた財産の価額にその贈与分を加えた“みなし相続財産”を基準に相続分を計算し、贈与を受けた相続人の取り分を調整する方向で考えます。つまり、“先にもらっていた分を完全に無視して遺産分割する”わけではありません。
現金ではなく株式でも特別受益になる?
はい、株式でも特別受益になり得ます。民法903条1項は贈与財産を現金や不動産に限定しておらず、相続人に対する株式贈与であっても、実質的に相続分の前渡しといえるなら問題になります。とくに自社株や多額の非上場株式は財産的価値が大きく、単なる家族内の名義移転として軽く扱われないことが多いです。
“事業承継のために渡した株”でも相続では無関係?
無関係とはいえません。事業承継の意図があっても、その株式贈与が他の相続人との公平を大きく崩す場合には、遺産分割や遺留分の場面で調整の対象になり得ます。経営上は後継者に株を集中させたい一方で、相続上は“なぜその株式だけ特別扱いされるのか”が争われやすいため、贈与時の目的、被相続人の意思、他の財産配分の予定まで含めて見る必要があります。
2. 株式贈与は特別受益として持ち戻しされる?
相続で最も重要なのは、“株式を渡した事実”そのものより、“その贈与が特別受益に当たるか”です。ここが整理できないまま話し合うと、相続分の前提が食い違い、遺産分割協議がまとまりにくくなります。
どんな株式贈与が特別受益になりやすい?
典型的には、相続人に対し、将来の生活基盤や事業基盤になるような規模で株式を移した場合です。民法903条1項は“婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本としての贈与”を対象にしており、実務上は金額、目的、家族内での位置づけ、他の相続人との比較から判断されます。上場株式でも非上場株式でも、財産的に大きいなら争点化しやすいと考えたほうが安全です。
株式贈与があっても持ち戻し免除される場合はある?
あります。民法903条3項は、被相続人が持戻し免除の意思表示をしていたときは、その意思を尊重する仕組みを置いています。そのため、遺言書や贈与時の明確な合意、他の相続人との関係を踏まえた事情から、単なる贈与ではなく“持ち戻ししない前提の贈与”だったことが認められるかが重要です。もっとも、免除の主張は抽象的な“親の気持ち”だけでは足りず、客観資料の有無で差が出やすいです。
相続開始から長く放置していたら主張できなくなる?
令和3年改正の民法により、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、原則として特別受益や寄与分の規定は適用されません。つまり、“昔の株式贈与を今さら持ち戻して具体的相続分を修正する”ことが難しくなる場面があります。長年放置された相続ほど、株式贈与の有無や価格資料が散逸しやすいため、制度面でも証拠面でも早期対応が重要です。
3. 株式贈与の評価額はどう決まる?
株式贈与の相続上の紛争は、“贈与があったか”だけでなく“いくらとして扱うか”で激しく対立しやすいです。特に非上場株式は市場価格が見えにくく、税務評価と遺産分割上の評価が当然に一致するわけでもありません。
贈与した時の株価で見る?死亡時の株価で見る?
特別受益として扱う場合、一般には相続開始時、つまり被相続人が亡くなった時点の価額を基準に考えるのが実務上の基本です。したがって、10年前に渡した株式であっても、相続開始時に価値が大きく上がっていれば、その上昇後の価額が相続分調整で問題になる可能性があります。株式は不動産以上に価格変動が大きいので、“昔は小さい贈与だった”という感覚だけで整理しないほうがよいです。
上場株式と非上場株式で揉め方は違う?
かなり違います。上場株式は市場価格を参照しやすい一方、非上場株式は純資産、収益性、支配権の有無、会社の実態などを踏まえた評価が必要になりやすく、当事者の主張差が大きくなります。相続税申告で使った評価額がそのまま遺産分割で採用されるとは限らず、協議や調停で別の評価が問題になることもあります。
自社株の価値が急上昇していたらどうなる?
自社株の価値が贈与後に大きく上がっていた場合、その上昇分をめぐって不公平感が強まりやすいです。後継者側は“自分が経営して価値を上げた”と考え、他方の相続人は“親から受けた株が今は巨額になっている”と見るため、評価時点と寄与の有無が争われます。裁判所の資料でも、相続事件では生前贈与の有無や財産評価が多岐にわたり、審理が長期化しやすい要因とされています。
4. 遺留分や遺産分割では何が争点になる?
株式贈与は、遺産分割だけでなく遺留分の場面でも火種になりやすいです。特に“兄に株式を集中させた結果、他の相続人の最低限の取り分が薄くなった”という構図では、感情面と法的主張が重なって争いが深くなります。
株式贈与があると遺留分侵害額請求もできる?
株式贈与の内容によっては、遺留分侵害額請求の検討対象になります。実際に最高裁平成30年10月19日判決は、共同相続人間で無償でされた相続分譲渡について、一定の場合には民法903条1項の“贈与”に当たると示しました。これは、“形式的に贈与と呼んでいないから相続上の調整対象にならない”とは限らないことを示す裁判例として重要です。
“名義は子に移したが実質は親のまま”という場合は?
この場合は、そもそも有効な贈与が成立していたのかが先に問題になります。株式の名義だけ移しても、贈与契約の存在、株主としての権利行使、配当の帰属、株主名簿の処理などが曖昧だと、“本当に贈与が完了していたのか”から争われることがあります。相続で揉めるのは、贈与の法的評価だけでなく、事実認定が崩れるケースが多い点にも注意が必要です。
5. 相続で株式贈与が疑われるときの確認ポイントは?
株式贈与の相続対応では、感情論より先に資料整理が必要です。特に非上場会社の株式は、証拠を早めに確保できるかどうかで、その後の交渉と調停の進み方が大きく変わります。
まず何を集めればいい?
最低限、株主名簿、定款、贈与契約書、株券の有無、贈与税申告の有無、会社の決算書、配当の履歴、被相続人の遺言書を確認したいところです。非上場株式では、株式の数だけでなく議決権割合や会社支配への影響も重要なので、単に“何株あるか”だけでは足りません。相続人全員が同じ資料を見られる状態を作ることが、無用な疑心暗鬼を減らす第一歩です。
譲渡制限株式だった場合はどう考える?
相続の文脈では、譲渡制限株式かどうかも重要です。会社法174条は、株式会社が定款で定めれば、相続などの一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、その株式を会社へ売り渡すよう請求できる制度を置いています。生前贈与そのものの有効性とは別に、相続開始後の株式の帰属や会社側の対応が問題になるため、会社法上の定款規定も必ず確認する必要があります。
争いを大きくしないために何を意識する?
“贈与があったか”“特別受益か”“いくらで評価するか”“持ち戻し免除があるか”を分けて整理することです。株式贈与の相続問題は、ひとつの争点に見えて、実際には事実認定・民法上の評価・会社法上の制約・税務資料の読み方が重なっています。最初から結論を言い切るより、どの争点で対立しているのかを分解したほうが、協議でも調停でも前に進みやすいです。
相続における“株式贈与”は、単なる家族間のやり取りでは終わらず、特別受益、持戻し免除、遺留分、株式評価、譲渡制限といった複数の論点に広がりやすいテーマです。とくに非上場株式や自社株が含まれる場合は、評価額しだいで取り分が大きく変わるため、“昔に渡した話だから”と軽く見ず、事実関係と資料を先に固めることが実務上の出発点になります。

弁護士法律相談の予約
すべての相談は専門弁護士が事件の検討を終えた後
専門的に行うため、予約制で実施されます。
電話予約
365日24時間相談と緊急対応
オンライン予約
オーダーメイド型法律サービスを提供しています

